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目を塞いでいる時間があるなら。

そんな時間があるのなら、前を向こうと思う。

俺の前には、君が立っているから。

だから、目を開けていようと思うんだ・・・・・。

そして出来れば―――






終わらない鬼ごっこ








深い、深い森の奥。
人目を避けた閑散とした地に巨大な墓石が立っている。
白い、白い天まで伸びるかのような。

――時空制御塔

それが、墓石の一般的な呼称。
そこには狂王ヴェンツェルと、名を口にする事すら禁じられた少年が眠っている。
一歩、足を踏み入れる度に罪の香りが漂う、鉄錆びの匂いが。
立っているだけで、息が詰まり眩暈がする。苦しい。

「・・・・・おい、どうした?」

不審な少女の後を追い、塔の中腹部まで登ったところで背後から呼び止められた。
振り返るまでもない、ゼノスだ。今、共に旅をしている仲間の中で自分の正体を知る二人の内の片割れ。
そして唯一、血を分けた存在。遺伝子上では彼は俺の息子だ。だからだろうか、何故か彼の事を年上だとは思えないでいた。
ゆっくり後ろを向けば、蒼い海のような瞳が俺を心配そうに見ている。不思議に思って首を傾げば。

「・・・・お前、具合悪いんじゃねえか?顔色悪いぜ」
「・・・・・・・・ああ、ここは・・・・・うん。どうやら、何かいるようだ」
「何かって、何だよ」
「・・・・・・とても、悪いもの。一年前全て断ち切ったと思っていた、もの」

そう、息苦しいのは罪の記憶が呼び起こされているからだけじゃない。
自分の中に残ってしまった闇が、この塔の内部から漂う自分に近しいものに共鳴しているからだ。
皆は俺を人間にしてくれようとしていたようだが、結局のところ『紛い物』は『本物』にはなれなかった。
それをこの苦しみが証明している。思わず、自嘲を零しそうになったが何とか堪え、自分を複雑そうな表情で見遣っている
歳の離れた友を見上げた。

「ここには、アレの類似物がいるみたいだ」
「・・・・・・ゲヴェル、か」
「・・・・・・・・ああ、でも。何とかなるだろう。倒し方のコツはもう掴んでるし?」

何でもない風に、何処か茶化すように言えば、ゼノスはまだ納得行かなそうな顔をしていたがポンと俺の頭を撫でると
「無理すんなよ」と一言呟いて他の仲間に呼ばれた方へと歩いていく。心配しながらも、深くは詮索しないでくれるその態度に
ほっと息を吐いた。だって知られるわけには行かない。こんな後ろ暗い、ドロドロした気持ち。特に『彼』には・・・。

しかしそんな事を考えている時に限って、いつも『彼』がいるのは何故か。漆黒の長衣を纏った、アーネストが近づいてくる。
その足取りは速く、このまま通り過ぎるつもりかと思っていれば、ピタリと自分と一歩半ほどの距離で彼は足を止めた。
ぱちぱちと目を瞬いて動向を見守っていれば、無感動な紅い瞳で見下ろされる。何を考えているのか、まるで分からない。
かといって、問うたところで答えが返るとも思えずアーネストが口を開くまで俺はひたすら待った。けれど。

「ぼさっとするな」

漸く出た言葉はそれ。次いで、手を取られ、引っ張られる。何か、言いたげだった気がするが単に迎えに来ただけなのだろうか。
言葉は冷たいのに、繋がれた手はとても暖かい。何だか不思議な感覚がした。黙って、引かれるままに彼について歩けば、ふと
何かを思い出したかのような、そんな響きの声で彼はぽつりと言の葉を落とす。

「・・・・・・お前が、何を思っているかは大体分かる。だから言おう、貴様は馬鹿だ」
「・・・・・・・・・なっ!」
「過去の柵に囚われ続ける事は酷く愚かだ」
「・・・・・・アーネスト?」

呼んでも振り返らない。けれど、繋いだ手だけは解かれず、足も止めず、ただ彼はひたすら前を行く。黒衣に包まれた背中が、
心なしかいつもより大きく見えた。銀髪が一歩足を進める度にゆらゆらと揺れる。月の残像を見ているような気になって、
気がつけば、自由な方の手をそこに向けて伸ばしていた。ぱらと乾いた音がする。指先を銀糸が擽って、その事が煩わしかった
のか、アーネストは今まで振り返らなかった顔をこちらに向ける。

「・・・・・あ、ごめ・・・・・・」
「・・・・・・・?何を謝る。勝手にすればいい。俺も勝手にする」
「・・・・・・・・・え、うん・・・・・・でも・・・・・・?」
「・・・・・・・お前は、『ここ』が『墓場』だとでも思っているのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・え?」

また、視線を前に戻してアーネストは歩き出す。それから淡々と、世間話でもするかのような口調で切り出した内容は、俺が
もっとも気にしているもので。図星を指されたように目を、見開いた。

「・・・・・『ここ』はあの方が・・・生の柵に囚われ、意にそぐわぬ事をさせられ続けたあの方が最後の決断をした場所だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・うん」
「ほんの僅かの間でも創造主からもあの狂王からも解き放たれ、何に囚われる事もなく、己の身の振り方を選んだ」
「・・・・・・・・・・・そうだね」
「それで例え命を落としても、最期の瞬間、あの方は自由だった。故に、『ここ』は『墓場』ではない。
死の象徴などでなく、もっと前向きな・・・・『自由』の象徴だ。それに、あの方は誰かを不幸にする為に死を選んだ訳じゃない。
自分が死んでも、残された者が倖せになるようにと、生への柵すら捨てたんだ。だから、残された者は倖せにならねばならない」

お前も、俺も、と。そう呟いた彼の声は常と違ってとても穏やかで優しい。繋がれた手が、暖かいを通り越してどこか熱い。
普段の彼は、淡白で無表情で、何処か氷のような印象を受けるけれど、本当はこの繋がれた手の温度から分かるように、
焔のように熱いとすら思えるほどの熱を秘めている。それが分かると、いつも胸の何処かが締め付けられて切なくなってしまう。
意地悪で、時々冷たくて、でも優しくて、掴み所のない人。遠いようで近いようで分からなくなるから、こうして距離が縮まった
時は条件反射のように手が伸びてしまう。そっと大きな背中に抱きつけば、また止まる足。それから振り返って・・・・・

「・・・・・・・何だ、どうした」
「・・・・さあ?いいじゃないか、さっき勝手にすればいいって言ったろう?」

聞かれたって、上手く理由を述べられそうもなく、それに少し気恥ずかしかったので、その背に身を隠すように上体を
低くすれば、アーネストは何やら合点したような顔つきで口を開く。

「・・・・・・・・ああ、そんなに人肌が恋しいのか?だったらそう言えば幾らでも抱いてやるのに」
「な、何言って・・・・・、ど、どうしてすぐそういう風に取るんだ!」
「・・・・・・腰に抱きついてくるお前が悪い」
「ち、違う!俺は背に抱きついたんだ!!身長差があるんだから仕方ないだろう!!」

上体を低くしたせいで確かに今腕は背から腰へと下がってきてしまっている。しかし、それは顔を隠すためであって他意はない。
必死になって違うと叫べば、アーネストはつまらなそうに眉間に皺寄せた。その上更に舌打ちまでして。

「・・・・・チッ、可愛くない奴だ」
「舌打ち!?あからさまに態度悪すぎるだろう!??」
「喧しい、急に元気になるな」

しっし、と未だに腰に回った腕を払われる。けれどそれで離されるのは何だか癪だったので、いつも困らせられてる分
アーネストも困らせてやろうとしがみつく力を強くすれば、何故か笑われた。

「・・・・・・フン、陰気な気もいつの間にか振り切ったようだな」
「・・・・・・・・・・・・は?」
「先ほどまで、随分と暗い顔をしていたが?あの鈍感なラングレーにも分かるほどにな」
「・・・・・・・・!み、見てたのか!?」

思わず、力を込めてしがみついていたアーネストの腰を離す。ゼノスに慰められていたのを見られていたのが恥ずかしくて。
それに、何かちょっと悪い気もするし。そう思って少し離れたところから彼の顔を窺えば、怒るでもなく、にっこりと笑った。
しかし、その顔を見て凍りつく。何故ならアーネストが笑う時は怒っている時以上に恐ろしいから。じりじりと、相手を刺激しない
ように後退しようとするが、がっちり腕を掴まれた。それから引き寄せられてクン、と髪を一房掴み上げられる。

「・・・・・・痛っ!」
「・・・・・・はて、ラングレーが触れたのはこの辺りだったか?」
「ちょ、アーネスト痛い!髪引っ張るなって!」
「・・・・お前は俺のモノだ。この髪の毛一筋すら全てな」

耳元で囁いて、アーネストは掴んだ髪を指先に絡めると髪を引っ張る乱暴さとはまるで掛け離れた優しい動作で髪に口付ける。
それだけ見れば、何処かの騎士か王子様のようで。何故かは分からないが自然と顔が紅くなってしまう。

「いっそ奴が触れたところ全て切ってやりたいところだが・・・・それではあまりに不恰好だからな。貸しにしといてやる」
「か、貸しにするって、どういう事だ!大体俺は・・・・・っん!?」

傲慢極まりない台詞に食って掛かろうとすれば、逆に・・・・・それは喰われてしまった。自分に都合が悪いと思えばこうやって
口を塞いでくるであろう事が分かってて何で俺はいつも彼の思うツボに嵌められているのだろうか。自分の学習能力のなさに
呆れていれば舌が割り込んでくる。抵抗しても無駄な事は分かってるので素直に受け入れれば貪るように、けれど殊更丁寧に
口腔を舐られ、案の定息も絶え絶えになるほど深く犯された。最後にちゅ、と音を立てて下唇を吸い上げるとアーネストの方は
息を乱す事もなく、余裕で。シニカルに口の端を持ち上げる。

「なに、貸しはここから戻ったらすぐにでも宿で返してもらうから安心しろ」
「な、貸しって・・・宿ってまさか・・・・・・・」
「だから、そういう事だ」
「んな、ばっ、誰が安心できるか!!」
「・・・・・・・・あまり煩いとまた口を塞ぐぞ?」
「・・・・・~~~~ッ」

ああ、またこれだ。どうしたって彼ペースになってしまう。どうしたら自分のペースに持っていけるんだろうか。いや、それよりも。
彼のせいですっかり忘れていたがここには人を追ってきた上、すぐ近くには仲間もいるし、それにここはあの『時空制御塔』だ。
さっきまで確かに彼が言う通り息苦しくて、悲しかったのに、その思いを共通に抱いているであろう彼に微塵もなく消されて
しまっていた。それはもう不思議なくらい綺麗さっぱり。魔法のようだと思う。そうやってからかうようにして彼は俺の不安や
苦痛を攫っていってしまう。本当に掴み所のない人だ。そしていつもお礼を言う前に先に歩き出してしまう。

「・・・・・アーネスト」
「・・・・・・・・・ん?」

でも、呼び止めれば止まりもしないし、振り向きもしないけど、一応の反応は返してくれる。それが嬉しくてつい時と場合も
考えもせず、笑ってしまう。心なしか、アーネストの後姿も小さく笑っているような気がする。それに後押しされていつも
言いはぐっている言葉を紡ぐ。

「アーネスト、ありがと」
「・・・・・・何の礼だか分からんな」
「いいよ、それでも。俺が言いたかっただけだし」
「・・・・・・・そんな事言っても貸しは帳消しにしてやらんからな」
「・・・・・ちょ、ええ!?」

前言撤回したくなるような科白を吐かれて。抗議する前にすたすたと置いてくようにアーネストは早足で前を行く。
遠ざかる背が眩しくて、でも切なくて、結局俺はその背を追わなければならない。終わりのない、鬼ごっこでもして
いるような気になってしまう。けれど、終わりなどなくても、一生続くものでも彼とする鬼ごっこなら存外楽しそうだと
今まで自分にとって罪の証でしかない、この場所で俺は心の底から笑った。それはきっと、倖せだから。
彼の大事なあの人の望んだように―――


だから。

目を塞いでいる時間があるなら。

そんな時間があるのなら、前を向こうと思う。

俺の前には、君が立っているから。

だから、目を開けていようと思うんだ・・・・・。

そして出来れば君に追いついて傍にいたい。



―――ずっと、ずっと

自由で、倖せであるように・・・・・。






fin




うーん、途中まではシリアスだったのですが。
しかし中盤まで書いてこのままだと白アニーじゃないか!!という事に
気づきまして修正を始めたら見事に緊張感ないバカップルになりました(おや?)
えー、ちなみに貸しは(勝手に)身体で払わせるのが黒アニーです(殴)
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