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※カーマイン猫+子供化ですよ。




世界が歪んでいる。
歪んだ世界に生きる己もまた、歪んでいる。
今更、真っ直ぐになどなれない。



そう、信じていた――――














国の重鎮ともなれば、命を狙われる事も度々ある。
故に自邸に帰る岐路にて、草葉の茂みが音を立てた瞬間、刺客だと思った。
条件反射で、無様にも音を立てた刺客が隠れているであろう茂みへと抜き放った剣先を向ける。
そして低く、鋭い声で言い放つ。

「そこにいる者、さっさと出て来い」

早くせねば斬るぞと急かして。どちらにしろ刺客なら斬るつもりであるのは表面に出さないが。
しかし待ってみても、茂みからは誰も姿を現さない。その存在を既に気づかれているというのに。此方が覗き込みでもして
隙を作る機会でも窺っているのか、それともただ単に臆病なだけなのか。考える時間も勿体無い。
相手が出て来ないのなら、これ以上手間を掛けさせられる前に此方から行動に出るべきかと判断し、先に牽制しておいた通りに
何者か隠れている茂みへと太刀を振り下ろす。風切り音と葉擦れ音が混じり、今まで草葉に覆われていた部分が剥き出しになる。
だが、そこに在る筈の影も吹き出るべきの彩りもない。一太刀で、殺した筈だった。けれどそこには誰もいない。

「・・・・・・・・?」

逃げられたか?
自問してみる。しかし、それはすぐに打ち消された。
己の存在すら隠せなかった粗忽者が、自分に気配を悟らせずに姿を消せる訳がない。それは絶対の自信。
驕りでもなんでもない。自分は他人の気配を察する事、またその逆に自分の気配を消す事は誰よりも得意としているのだから。
そうでもなければ、今自分は国に於いて最高に栄誉ある騎士―インペリアルナイト―の座になど就けなかった。

ほんの少し、荒れていた時の自分を思い出す。何の志もなく、何もかもに驕りを持っていた愚かであった自分の事を。
いや、違う。愚かであった、ではない。未だに自分は愚かだ。それを識っているし、理解もしている。
歪な世界に生きる、歪な者。それが自分だ。思わず、嘲笑が漏れ出た。命を狙われているかもしれない時にそんな事を
考えている自分に対して。この、危機感のなさ。こんな時、もしも殺されたら、国中のいい笑い者になるだろう。
そんな事、御免だ。気を引き締める。辺りを観察した。そして気づく。音の正体、延いては自分の落ち度に・・・・・。

「・・・・・・・・行き倒れ、か・・・?」

血の色、と呼び称される視線を足元へと下ろせば、茂みで音を立てた正体であろう者を見つける。
出て来いと告げたところで出てこない筈だ。音を立てた者は、うつ伏せになっている上、古びた外套を羽織っているため、
窺えぬがどうやら意識はないらしい。助けを求めようとして力尽きた、そんなところだろう。もしかすれば、最早絶命して
いるかもしれんなと思いつつ、倒れている人物の外套を剥ぎ、顔を窺おうとした、けれども。

「・・・・・・・何だ、これは・・・・・・・・・」

外套を剥げば、見慣れぬものが姿を現した。一見すれば黒髪の小柄な子供。しかしそれに可笑しなものがついている。
頭上にはぐったりと垂れた、人間にあるには不自然な、まるで猫のような獣耳。対して腰には長い尻尾が揺れていて。
非常識な夢でも見ているのではないかと思った。確認のため揺らめく尻尾を引っ張ってみる。ただの装飾品かもしれぬと
思っての事だ。だが、かなり強めに引っ張っても尻尾は取れない。それどころか、幼子が悲鳴にも似た呻き声を上げた。
どうも神経がちゃんと繋がっているらしい。という事は、馬鹿でも分かる。この尻尾は本物、という事だ。
では、この子供は一体何なのか。考えて、不意にいつか見た古い文献に書かれていた言葉を思い出した。

「・・・・・キメラ・・・・?」

人間と獣とを故意に合成させた、この世に在ってはならない生き物。
自然の摂理に反し、神への冒涜とも言えるその行為の創造はもう、数世紀も前から禁じられている筈だ。
しかし、自分の持ち得る知識の中ではそれしかこの、獣の耳と尻尾が生えた子供の存在を言い表せない。
勝手に創り出され、それが露呈すれば見世物にされるか殺されるだけの、存在。
情けなど、他人に掛けた事は片手で数えるほどしかないが、この気を失っている幼子がとても哀れに思えた。
故に普段なら抛って置くところだが、見兼ねて抱き上げる。あちこちに擦り傷を負った小さな命を自邸へと招き入れる事にして。





◇◆◆◇





自邸に辿り着くと、その足で寝室へと直に向かう。傷だらけの小柄な身体をベッドへと横たえた。
本来ならば、倒れていた事だし、医者にでも診せた方がいいのだろうが、相手は推測の域を出ないとはいえ、明らかに
異質な存在だ。迂闊に外へ出すわけにも行かない。命を救うどころかすぐさま殺される事だって考えられる。
そんな事は常ならば気にしない事だった。誰が死のうと興味など持たず、勝手に死ぬ方が悪いのだとそう思って。
命の尊さも有難みも、重さも自分は何も理解していない。今更だがそれを自覚する。なのに何故この子供は助ける気に
なったのか。異端な存在だからか。それとも寝顔があまりにもあどけないからか。分からぬが、いくら考えたとしても
きっと答えは出ない。ならば、考えるだけ無駄だと疑問は頭の中から追い出し、それよりもと子供の傷の手当てに入る。

基本的に戦闘中に己が怪我を負う事などないため、士官学校時代に習った蘇生術や手当ての作法は無意味だと
思っていたが、こんなところで役に立つとは思わなかった。泥に塗れた肌をぬるま湯で浸したタオルで拭い、擦り傷は
オキシドールで消毒し、絆創膏を貼り付け、少し深い傷は消毒した後、薬をつけ、ガーゼを当て包帯を巻く。
キュアでも唱えれば一発で治ってしまいそうな軽症だが、キュアは意図的に人体の自然治癒力を活性化させるという
いわばかなり即効性の薬のようなものだ。多用すれば身体に悪い影響が出る。なのでこの程度の傷で使うわけにもいかない。
多少面倒ではあるが、キュアを使わずに手当てを施す。休みなく手を動かし、怪我の手当てが終わるとようやく一息吐いた。

それから改めて眠っている子供の顔を見れば、先ほど見た時はあどけない、と感じた寝顔がよくよく見ればそれだけでもない事に
気づく。子供特有の丸み掛かった輪郭は仕方ないとして、閉ざされた双眸を縁取る睫は頬に影を落とすほどに長く、瞼に至っては
滅多に見ない三重、鼻梁は高く綺麗に筋が通り、ふっくらとした頬や唇は桜色を乗せている。おまけに漆黒の濡れ色の髪に
相反するように肌の色はどこまでも白い。一言で言い表すのなら、美貌と言える整った顔立ちをしていた。

「・・・・・何者だ?」

人間ではない事は確か。けれどキメラでもないだろう。この美貌は人間の手では創れる筈もない。その存在を信じた事など
一度もないが、この奇跡的な顔立ちは神以外に創れはしない、そう感じる。それこそ絵空事の中にしか存在しない天使か悪魔の
類のように。それにしては獣耳と尻尾は不釣合いな気がしてならないが。まあ、何にせよどうでもいい事だ。しかし、不意に
あまりにも静かすぎる幼子の寝息が気になって、柔らかな唇へと指先を伸ばす。僅かではあるが、ちゃんと呼気は感じられる。
我知らず、安堵した。そして安堵した事に疑問を抱く。自分は他人を気に掛けるような優しい人間ではないのに。こんな、会った
ばかりのしかも口一つ利いていない子供の事を気にするとは。あまりに可笑しかった。口元に嘲笑にも似た笑みが浮かぶ。

俺に、優しさなんて似合わない

小さな口元に触れている指先で、無防備な唇をなぞる。そのまま中指を引き結ばれたそれに無理やりこじ開けるようにして忍ばせた。
唾液が絡んで粘着質な音を立てる。幼子の眉間に苦しそうに皺が寄った。その顔を見て、うっとりと瞳を細める自分がいる。
何をしているのか、自分でも疑問を抱く。それでも指の動きは止まらず、無意識にであろうが逃げ回る小さな舌を捕らえ、弄った。
また苦しそうにあどけない白皙の面が歪む。それが可愛らしく感じるのは、相当に自分自身が歪んでいる証拠ではなかろうか。
一際強く口腔の指先を蠢かすと、微かな呻きと共に幼子は厳重に閉ざしていた瞳を開いた。

「・・・ん・・ふぁっ・・・・」
「・・・・・・ッ!」

思わず、目を剥く。まだ何処か夢心地のぼんやりとした眼差しが、見た事もない彩を宿している。
右目が金に左目が銀。ヘテロクロミアという世にも稀な異彩の双眸。自身のアルビノの瞳も珍しいと言われてはいるが、
ヘテロクロミアはそれ以上に珍しい。魂を吸い込まれそうなほどに澄んだその瞳から、目を逸らせない。
結局、完全に覚醒した幼子が声を発するその時まで俺は何も出来ず、立ちすくんでしまっていた。

「・・・・・ぁ・・・・だぁれ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

不思議そうに細い首が傾ぐ。漆黒の髪が軽やかな音を立てて流れる。鈴の鳴るような可愛らしい声が鼓膜を打つ。
どうやら、自分の身に降り掛かっていた事態には気がついていないらしく、無垢な視線を一心に俺へと注いでくる。
そのあまりにも真っ直ぐで澄んだ瞳が、自身の濁りかけた瞳には眩しく映った。顔を逸らす。そうすれば、幼子は手当ての跡が
痛々しい小さな手を伸ばし、俺の腕を掴む。あまりに弱く儚い力。けれど、俺以外の人間が表現すればこれはきっと
とても優しい力、と言ったところなのだろう。自身の歪みを改めて再認識する。そんな俺に止めを刺すように幼子は屈託もなく言う。

「・・・・・大丈夫?何処か痛いの・・・・?」
「・・・・・・・・ッ・・・・・・」

心配そうに俺を見上げ、手にしている腕を気遣わしげに撫でてくる。自分こそが怪我をしているというのに。
随分とお人好しな子供らしい。此方の毒を抜かれてしまうくらいに。とは言え、自分にはそんな子供に優しくしてやる事は出来ぬが。
居心地が悪くなり、掴まれた腕を些か乱暴とも言える荒さで振り払う。

「・・・・・あっ・・・!」

腕を払われ、子供は元々大きな瞳を更に見開く。零れ落ちるかと思うほどに。しかしそれも当然だろう。初対面の人間相手に
親切にしたにも拘らず悪態を取られているのだから。大人であれば多少は理解も出来るだろうが、見たところ4、5歳前後の
子供には自分が一体何をされたかすら理解は出来ないだろう。下手をすれば泣き出すかもしれない。そうなれば、面倒だと
そんな事を考えている自分がいる。本当になんて身勝手な男なのだろうか、俺という男は。分かっていても顔に貼り付ける
鉄面皮は子供相手だと言うのに取り払われる事はない。子供の色違いの瞳が揺れた。ああ、どうやら泣くようだ。面倒くさい。
そう思い眉を顰めた。けれど。

「・・・・・ごめんなさい」
「・・・・・・何?」
「・・・・嫌、だったんでしょ。ごめんなさい」

ぺこりと小さな頭が下を向く。ヘテロクロミアを見た時以上の衝撃を受ける。どう見ても自分とは15は年が離れているだろう
子供の方がよほど自分よりも大人だ。滅多に崩した事のない無表情が今だけは、驚きに滲んでいるのを感じる。同時に
押し寄せてくるのは羞恥。自身の子供染みた心が忌々しく思えた。その際に顰められた眉を自分に向けられたものだとでも
思ったのか幼子は先ほど以上に瞳を揺らし、か細い声で「ごめんなさい」と呟く。何とも健気なものだ。それを見て、ほとんどないに
等しい自身の良心が疼く。意図するでもなく、手が出た。

「・・・・・・え?」
「・・・・お前が悪いわけではない。勝手に謝るな」

もっと優しい言い方は出来ないのか、俺は。そうは思うが、優しい言葉を口にする自分は非常に自分らしくないとも思える。
故に妥協点として、途惑っている幼子の頭を撫でた。なるべく、優しく。それからついでのように目に付いた耳に触れる。
するとそこは弱点だったのか、幼子は子供とは思えぬ妙に艶のある声を上げ、身を捩った。

「・・・・・ん、ぁ・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「触っちゃ、だめぇ・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

顔を真っ赤にして、そんな事を言われれば逆らいたくなるのは俺だからか、それとも人の性か。
どうも触られるのが嫌そうな耳を、もっと強く触れる。そうすれば、幼子は擽ったそうに、そしてまるで愛撫でもされてるかのように
恥らう。その顔が気に入って、手だけでは済まず、自身の唇で柔らかく食む。まだ名前も知らない、小さな子供相手に。
そこで気づいた。ああ、そうだ。

「お前、名は何と言う」
「・・・・・・・・・ふにゃ?」
「だから、お前の名前だ」

猫のような声を上げ、顔を真っ赤にし、大きな瞳に涙を浮かべながら、俺から守るように耳を押さえている子供は名乗る事を
何故か渋る。警戒されているのだろうか。まあ、無理もない。辛抱強く待ってもいいが、時間を無駄に浪費するのも勿体無い事だ。
時間節約と、先ほど見せた目を惹く顔見たさに両耳を押さえるために上に固定された腕を見て笑い、がら空きなもう一つの急所で
あろう尻尾を掴む。予想通り小さな身体はその衝撃に跳ねる。

「ひぁ!」
「名前を訊いている」
「・・・・はな、して・・・・やぁっ・・・・」
「だから名前は?」

尻尾を掴む腕に力を込める。幼子がついに涙を零す。嗜虐心を呼び覚ます何とも可愛らしい表情。
苛めてしまいたくなる。その心のままに口元を歪め、意地の悪い視線で怯えるように震えながら泣く子供を射抜く。
目に見えて大きく幼子は震える。畏怖の心を露にしたままに、ようやく口を開いた。

「・・・・・・・・・・イン」
「・・・聞こえんな」
「・・・・カーマイン」
「カーマイン、か。最も美しい紅の色だな」

確かに、血のような紅を纏えばより美しさを増すように感じる。けれど、血を流させたいとは思わなかった。僅かに震える頬を
伝う涙を唇で拭ってやる。塩辛い。驚いた双色の瞳とかち合う。

「・・・・そう、怯えるな。何も取って食いはしない」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「何だ、俺の言う事が信じられないか?」

俺の白々しい台詞に途惑う幼子―カーマインに更に白々しい微笑を浮かべて言葉を継げば、今し方酷い目に遭わされたと
いうのにカーマインは細い首を折れそうなほど激しく振る。その何処までも素直で純粋な様に何とも言えぬ歯痒さが込み上げた。
自分にはないものを全てこの子供は持っている。羨ましいとは思わぬが、好ましいとは思う。まだ涙の跡が残る頬に指先を
這わす。今度は安心させるように。触れられた直後はびくりと肩を跳ね上がらせたカーマインも段々と力を抜き、やがて俺の手に
自ら擦り寄ってくる。いっそ単純とすら思えるほど素直。本当はもう少し色々と困らせてやろうかと思ったが、止めた。

「お前、そういえば何故傷だらけで倒れていた?」

困らせる代わりに疑問を投げかける。それに対し素直な子供は、自分の身体を見て、そこで初めて手当てをされている事に
気づいたようで顔を真っ赤とは言わずとも朱色に染めて言う。

「・・・・・あなたが僕を助けてくれたの?」
「ああ、一応な。それにしてもあなたは止めろ。気色が悪い」
「・・・・・・・・?・・・・・でも・・・・」
「アーネストという名がある。そう呼べ」

普段部下に対するように威圧しながら硬い声で告げれば、カーマインは迷いながらも健気に頷く。
それから今までずっと見せなかった笑みを口元に履く。その、可憐さは何とも言えない。相手は子供だと言うのに、欲を煽られる。
物や人物に対し、対して執着や欲など持たなかった筈なのに、このあどけなく笑う、純粋無垢な子供を自分のモノにしたくなった。
肉食獣が、獲物に舌なめずりをするように自分の唇をゆっくりと舐める。カーマインは首を傾げた。何も知らない無知で無防備な
愛らしい生き物。忘れかけていた何かを愛しいと思う心が戻ってくる。

するりと僅かに乱れたカーマインの髪を梳く。それから気持ち良さそうに細められた瞼の上に口付けて、頼りない背中へ腕を
回し自分の膝上へと抱き上げる。適当にあやしながらも先ほど有耶無耶になってしまった疑問を再度投げかけた。

「カーマイン、改めて訊くがお前は何故傷を負い倒れていた?」
「・・・・・ん、と。僕・・・・ワザワイの子、なんだって・・・・・」
「災いの子、か」
「・・・・・・・だから、前に住んでたところでここにいちゃいけないって言われてそれで・・・・・・」
「・・・・・もういい」

全て聞かなくても、分かる。自分も生まれてきた時に同じような事を言われた。紅い瞳は死と呪いを彷彿とさせると。
そんな自分にはどうしようもない事で責められた。それからか。俺が今のように歪んだ、捻くれた性格になったのは。環境が人間を
育てるとはよく言ったもの。いや、しかし。この目前の子供は恐らく俺と同じ環境に過ごしながら直向きな素直さを残している。
持って生まれたものが違ったのだと、そう思う。更に愛しさと、例え傷つけてでも自分の事だけを思い、考えるようにしてやりたいと
いう凶悪な独占欲が湧き上がってくる。再び、すぐ目の前にある頭上の耳を食んだ。

「あぅ!」
「悦い声で鳴くなお前は」
「・・・・・・・・?」
「分からなくていい」

少なくとも、今は。
耳慣れぬ言葉、というよりも意味が通じなかった発言にカーマインはまた耳を押さえながらも、俺を遠巻きにする事もなく、
きょとんとした顔を向けていた。本当に何処まで純粋なのか。一から調べたくなる。あくまでなるだけ、だが。
それよりもと自身に銘打って。

「お前、行くところがないのなら俺が面倒を見てやろう」
「・・・・・・・・でも・・・・・ひゃぅ・・・・っ」

遠慮しようとする子供らしくない子供の尻尾を引っ張る。本当に、ここだけはどうも弱いようで直ぐに泣き出した。
実に分かりやすい。

「・・・・人の厚意は素直に受け取っておけ」

否定は許さないとばかりに握り締めた尻尾をカーマインの目の前で揺らしてやれば、ぐすぐすと泣きながらもカーマインは
何処か必死に何度も頷いた。それを見て尻尾を放してやる。それから褒美のつもりでこめかみに口付けて、本物の猫が最も
喜ぶ顎を軽く撫でた。途端についさっきまで泣いていたカーマインは嬉しそうに蕩けた表情を垣間見せる。飴と鞭のようだ。
上手く使い分ければ、この素直さなら手懐けるのもそう難しくはないだろう。暗い笑みを浮かべる。そんな事を俺が考えているとは
知らない、ある意味幸せな幼子は暢気に微笑み返してくる。

「ありがと、アーネスト」
「・・・・・・・?何がだ」
「僕を助けてくれて、僕を見捨てないでくれて・・・・僕を怖がらないでくれて」

最後の言葉は寂しげに。前に住んでいたところ、とやらでどんな扱いをされていたか容易く想像出来てしまう。
身体の傷の具合から見てもそれは明らかだ。よほど、差別的な扱いをされ、辛い目に遭ったのだろう。それが哀れで愛おしくて
今度ばかりは何の邪心もなく、頭を撫でていくとカーマインは本当に嬉しそうに笑う。その顔を見ていると、ずっと、それこそ
永遠に真っ直ぐになる事などないだろうと思っていた己の歪んだ心根がほんの少し、本当に僅かに歪みが正されていくような
気がする。そんな事、ありえないだろうに。けれど、そうは思っても胸が何処となく温かい。そして唐突に気づく。

ああ、この子供は自分と真逆でありながら、とてもよく似ているのだと。
片や純粋無垢、もう片やはとんでもなく歪んだ捻くれ者。けれど、お互い孤独なのは一緒。
隣りで、己に対し怯えぬ者を、離れて行かぬ者をずっと求めていたのだと。
心の奥でこの歯痒いまでの温かさを欲していたのだと。

気づくと声を立てて笑いたい衝動に駆られる。何故今まで気づかなかったのか。甚だ疑問なほどに。
けれども、やはり声を立てて笑うのは自分らしくない気がし、喉をクツクツと鳴らすに留めた。そして相変わらず呆けた風に
大きな異彩の瞳を瞬かせているカーマインの弱点である耳に直接声を落とす。

溺れるほどに愛してやろう

傲慢にすら響く言葉に返ってくるのは、一瞬驚いた色違いの眼差しと、途惑いながらも小さくはにかむ桜色の唇。
その愛しさに、生まれて初めてかもしれぬ、作り笑いでもなく、嘲笑でもなく、本当に心からの微笑を自らの口元に刻んだ。






世界が歪んでいる。
歪んだ世界に生きる己もまた、歪んでいる。
今更、真っ直ぐになどなれない。



そう、信じていた。


けれど。

可能性は0ではないのだと、

初めて、知った―――






fin




リクは黒アニーx猫主という事でしたので微妙に本館の白アニーx猫主と設定を
変えつつも出会い編を書かせて頂きました。長めの方がよいとの事でしたのでやや長め?
ですかね??別に黒アニーさんはお稚児趣味ではございません(笑)
気に入った相手に対し何処までも躊躇いがなく、手が早いだけです(嗚呼・・・・)
何はともかく華盛様、リクエスト有難うございましたー。リテイクもバッチこーいです(コラ)

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