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大気が震えるほどに冷えた夜は、

月が燃えるように燦然と輝いている。


それはまるで、

悪戯に胸を馳せる子供のように笑っているような気すらして―――






月の悪戯






「好きな所に落ち着け」

たった一日の休暇中、「来い」とただ一言で呼び出した客人へ部屋主の男は短く告げると、踵を返して姿を消す。
遠くから食器類を運ぶ音が聞こえてくる事から、恐らく招いたその客人の為の飲物でも用意しているのだろう。
常ならば紅茶かコーヒーを出されるのだが、しかしこの日は何故かグラスに氷を入れるような響きが客である青年の耳に届いた。
外はもう冬が間近で空気が凍てつくように冷え切っているというのに、何故冷たい飲物なのだろうか。
そんな疑問を覚えて、大人しくソファに掛けていた青年が腰を浮かしかけた頃、ドアが開かれ、部屋主の男が戻ってきた。
手にはトレイと、一つは砕いた氷が入ったグラス、もう一つは何も入っていないグラス、それから種類の違うボトルが数本。

「・・・・・それ、お酒?」

首を傾げながら、青年が問いかけると男は「そうだ」と一言で返す。テーブルの上にそれら一式を置いて珍しく
青年の向かいではなく、隣りに座した。それがやはり青年には意外だったようでじっと金と銀の視線を隣りに座る白い影に注ぐ。
ゆるりと緋色の瞳が無感動に、逸らされる事のない異色を捉えた。次いで、無言で氷の入ったグラスをそれが返事だとでも
言うかのように青年へ差し出す。青年は戸惑いながらも仕方なくそれを受け取った。

「・・・・・アーネスト?」
「・・・・・・・寒い、と言っていただろうが」
「言ったけど・・・・・それが?」
「身体を温めるにはコレが一番手っ取り早い」

そう言って、アーネストは空の方のグラスを自分で持つと、ボトルを一本開けて、注いでいく。無彩色の液体がグラスを埋め、
それからアーネストの口腔へと水のように流されていく。あまりにも簡単に飲み込んでいくから、そんなに強いものじゃないのかも、と
僅かに警戒していた青年も肩を落とし、アーネストに真似てボトルの中身をグラスに移して、こくりと一口、飲み込む。
しかし。たった一口、しかも氷で割ってるのにも拘らず、くわんと頭の中を乱暴に掻き混ぜられるような、そんな眩暈にも似た
感覚が脳裏を突き抜ける。喉が焼けるようにヒリつき、一瞬声が出ない。青年は喉を押さえて丸く蹲った。

「・・・・・どうした、カーマイン?」

してやったりとでも言うかのような笑みを履きながら、アーネストは白々しく問う。カラカラともう何も入っていない自分のグラスを
振って見せた。挑発、にも取れる仕種。恨みがましくカーマインはうっすらと涙の浮かぶ瞳でアーネストを睨み返す。
けれど、それにアーネストの笑みが崩される事はなかった。

「何だ、キツかったか?」
「・・・・・だ、ってこれ、強い・・・・・」
「ちゃんとロックにしてやっただろうが。俺はストレートだぞ?」
「・・・・・・・・・・俺はあまり飲まないんだ」
「この程度を飲めないようじゃ、まだまだ子供だな・・・・・」

クッ、と喉を鳴らして、アーネストは二杯目を早くもグラスに注ぐ。しかし、その様はやはり挑発しているようにしか取れない。
馬鹿にされた、と思ったカーマインは、アーネストが今まさに口をつけようとしているグラスを奪い取ると、グイと一気に飲み干した。
自分は子供なんかじゃないと、ロックでなくストレートで飲んでアーネストと対等だと、そう主張したくて。とはいえ、元々そんな酒に強い
わけでもないのにストレートで一気飲みをしてただで済む筈もない。先ほど以上の喉の痛みにカーマインは泣きそうになるものの、
何とか堪え持ち直すと、一瞬だけアーネストに「どうだ」と視線で訴えかけた。特に何の反応も返されなかったが。それがつまらなかった
のかカーマインはぷいと横を向く。そんな彼を横目で見ながらアーネストはこっそりとボトルの裏側のラベルを見遣った。
そこに刻まれているのは、『クエルボ・レゼルヴ・ド・ラ・ファミリア』というテキーラの銘柄名とアルコール度数40の文字。
通常のアルコールは15度以上から強いとされるが、これは40度、よほどザルな人間でなければ飲める筈もない代物。おまけに
ストレートでは悪酔いするのがオチだ。それが分かっていて挑発した自分は相当に性質が悪いとは自覚しつつ、まんまとそれに
乗ってしまったカーマインも相当に負けず嫌いだな、と笑う。それから視線をカーマインへと移せば、いつの間にか顔が紅い。
アーネストは様子を見る為に顔を寄せた。

「・・・・・・おい?」
「・・・・・・・・・ん、なぁに?」
「・・・・・・・・・・・・・・」

間近に見るカーマインの瞳は既にとろんと惚けている。口調も何処か幼い。小さな子供のように大きく首を傾けて目前の表情に
乏しい男の顔を見上げていた。しかしそれに飽きたのか、顔の向きを変えると、今まで飲んでいたボトルとは違うものへと手を掛け、
アーネストへと向き直る。

「・・・・ね、これなぁに?」
「・・・・・・・アモンティリャード・・・・シェリーの一種だ。本当はそっちがお前用だった」
「なんでー?」
「・・・・・・・飲めば分かる」

その言葉でカーマインはボトルのキャップを開けようとするが、酔いが回ってきているのか上手く開けられない。縋るような、
甘えるような目でアーネストを上目遣いに見遣る。頬は紅潮し、瞳は潤んだその表情は、ただただアーネストに溜息を吐かせる。
初めからそういう顔が見たくてアルコールを出したわけだが、いざ目前にすると微かに戸惑うのだから不思議だ。それでも
カーマインのもの欲しげな態度に応えぬわけにもいかず、ボトルを取り上げるとカチリと特に窮する事もなくキャップを開け、
カーマインに差し出してやる。

「・・・・・・・開けてやったぞ」
「ありがとー」
「・・・・・しかし、酒は飲まないんじゃなかったのか」
「だって飲めないと、アーネスト馬鹿にするんだもーん」

完全に子供口調でカーマインは新たに注がれたアルコールを口に運ぶ。先ほどのテキーラに比べれば、遥かに軽くて甘い口当たりに
カーマインは満足そうにグラスを両手で抱えてちびちびと何度もそれに口をつけた。その隣りで暫く彼の様子を見守っていたアーネストも
ジンやスピリタスなどの高濃度のアルコールを進める。しかし不意にカーマインの動きが止まった事から、グラスを机に置いて
カーマインの目前に手を翳してみる。寝ているのかと思ったから。が、そうではないらしく緩くだが反応が返ってきた。カーマインは
顔を上げると先ほどよりも更に真っ赤な顔で、いつもの毅然とした表情とは全く違う娼婦のような艶やかさと、幼子のような甘さを
携えた瞳でアーネストを囚えるとにっこりと綺麗に微笑み、普段ならば到底しない自分からのキスを微動だにしないアーネストの
唇へと贈る。

「・・・・・ん・・・・ふぁ、お酒の味が、する」
「・・・・・・・・だろうな」

少し驚いたものの、この先のカーマインの行動が気になるので平静を装いながらアーネストはやはり動かない。
しかし、カーマインが腕を首に絡め、舌を入れてきたので、腰を抱え、舌を受け、最低限の応えを返す。口腔がアルコールの匂いで
満ち、舌先がぴりと痛む。普段では味わえぬ状態に内心まんざらでもないアーネストは暫くそうして唇を重ねていたが、急にカクリと
カーマインの身体が後方へと傾いだ為、ほんの少しだけ慌てて細身の身体を受け止めた。顔を覗けばカーマインは頬を染めたまま、
深く瞳を閉じて眠ってしまっている。予兆すら見せぬ唐突なその有様にアーネストは呆れて大きく溜息を吐く他ない。本当の事を
言えば、いつもとは違う様子の何処か可愛らしく淫靡な様子のカーマインにかなりアーネストはその気になっていた。故に、細い眉は
見事に皺寄り不機嫌な表情を露にする。生憎相手は潰れているのでその様を見る事は出来ぬが。

「・・・・・・全く、煽るだけ煽っておきながら・・・・・いい身分だな貴様は」

すうすうと穏やかな寝息を湛え、アーネストとは対照的に幸せそうな表情で寝こけるカーマインにアーネストは恨みがましく告げるが、
当然何の反応も返っては来ない。しかも酒が入った上での眠りではきっと起こしたところで起きはしないだろう。更に溜息が重くなる。
しかし、そこまで思ってアーネストははっとした。

「・・・・・・どうせ起きんのだったら・・・・・」

悪戯してしまおう、とそれはそれは見事なまでに黒い微笑を浮かべ、抱えたカーマインの肢体を向きを変えてソファに横たえると、
柔らかな桜色の唇をそっと親指の腹で撫で上げ、額から順に口付けを下に向かって降ろしていく。瞼を掠り、頬を辿り、唇を蹂躙
して更に顎のラインをつと舌でなぞり、首筋まで下ると服でも隠し切れないであろうギリギリの箇所にわざと吸い付いて所有印を
残す。白い肌に紅い花が可憐に咲く。これは放って置かれた事への意趣返し。くっきりと残る痕にアーネストは満足げに口端を
持ち上げ、もう少し続きをしようかと思ったが、反応しない相手にあれこれする趣味はないので諦めた。代わりにカーマインを
抱き上げてベッドへと運ぶ。それから色々と片付けをし、自分だけシャワーを浴びて着替えるとカーマインの隣りに身を預ける。
最後にもう一度触れるだけの軽いキスをすると、思い出したように自分の唇に触れ。

「・・・・そういえば、こいつは酔うと随分積極的になるようだな・・・・」

普段なら絶対してこないカーマインからのキスを思い返し、暫くはそのネタで苛められるな、と呟くと悪戯が成功した
子供のような表情を乗せたままアーネストもカーマインに倣うように、緋色の瞳を薄い瞼で覆い隠し、夢の淵へと沈んだ。
ちなみに翌朝アーネストより後に起きたカーマインが切々と昨夜の酔い様の醜態を語り聞かされ苛められた上に
帰った自宅の屋敷でありとあらゆる身内に首筋の所有印を指摘される羽目に遭うのは言うに及ばずであったか・・・・・。




fin



えー、カーマインに少し強引にお酒を飲ませるアーネストがリクだったのですが・・・・。
クリア出来ているのでしょうか??いや、何と言うかもう、うっかりすると裏行きになりそうだったというか
裏の方が書きやすそうだったな(爆)とか頭の悪い事を考えていたのは内緒です(言ってる)
あー、いやええそのあまりに遅くなってしまいました上、しかも短いのでもし裏ver.見たいというご要望さえ
ございましたらお詫びを込めて書かせて頂きますので。いや本当に・・・m(_ _)m
とにかくリクエスト有難うございました夕紀様~。うわーん(泣いて詫びます)
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