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CAUTION

当作品は18禁です。
18歳未満の方、801という言葉に嫌悪を
持たれるお方は閲覧しないようにして下さいー。





―――全ての始まりは、泉だけが知っている。





泉の秘め事






星が騒めく。風が悪戯に吹き荒れる。梢が、せせらぎのように歌う。
月が大地を照らし、静寂な夜闇の中、何故か酷く落ち着かずに一人の青年が寝床から身を起こした。
目の粗い、野営用の軽い毛布が肢体を滑り落ちる。そっと周囲を見渡せば地面に寝そべる者、岩や木に
寄りかかって寝る者と、寝姿は様々。性格が、よく現れている。不意に顔を上げれば暖取りと獣避けに焚かれた焔越しに
岩の上で此方へ背を向けて座っている男の姿が映った。白銀の髪に、黒い装束。アーネスト=ライエルだ。
青年は色違いの目を擦りながら、何故彼はまだ起きているのだろうと思ったが、そういえば今日の見張りは彼だったな、
と思い起こし、疑問を頭から追い出した。何か声を掛けようかと思ったが、躊躇われる。自分にそんな資格があるだろうかと。
此方に背を向けている彼は、まるで全身から人を拒絶するかのような気配が立ち込めていて。おまけに出でたちが漆黒。
それは、青年の推測に過ぎないが彼の、喪った親友のために喪に服しているかのようにも映る。


―――お前を許さない。


彼の親友を奪ってしまった自分に対し、そう言っているようで青年は深く息を吐き、金と銀の瞼を伏せた。
実際にそう言われた事はウェインが彼を自分たちの部隊に引き入れ、数日が経った今現在でもないのだけれど。
それ以前にあまり会話をしていないな、とも思う。彼が避けているというよりは青年が彼、アーネストを避けているのだが。
真っ向から否定される事が怖くて、ただどうしようもなく逃げ回る。そんな弱い自分が嫌だと思う。変わりたいと思う。
しかし、そんな意思だけで変われるほど、人は器用ではない。何かしらのきっかけと覚悟がなければどうにもしようがなく。
気づかれぬように嘲笑して青年はこのままでは眠れそうにない、と誰に気づかれる事もないよう、細心の注意を
払い、野営地からそっと離れた。とにかく、誰もいないところで、一人きりになりたくて。





◆◇◆◇






ぱしゃん、と清らかな水が波紋を築く。縦横無尽に広がる水面に映った月が跡形もなく、散る。
ウェイン一行が野営している平原の近くの森を少し奥に入ったところにひっそりと存在していた泉を見つけ、青年は
ここならば誰も来ないであろうし、憂えた暗い思考を水に浸し流してしまおうと服を脱いで冷たい清水へと足を付け入れた。
浸かるには少々水が冷たすぎた気もするが、これくらいの方が余計な事に気を持っていかれずに済む、と
青年は淵から歩いて深みへと身を沈めていく。肌が冷たさで噛み付かれるように痛んだが、気にしない。そのまま、
そっと空を見上げた。とても大きな月と、それに負けじと数多の星々が広がっている。戯れに水に濡れた腕を伸ばしてみた。
そんな事をしたところで星を掴めやしないのは知っているが。それでも、手に入らない事を知っていながら、欲しいと、
焦がれてしまうのが人間だ。そこまで思って青年はまた皮肉気に口元を歪める。何が人間だ、と。自分は人間では
ないではないか、そう口にしかけて。

「・・・・・こんなところで何をしている」

背後から急に声がして、泉の中にいる青年は驚いて勢いよく振り返った。気配を全く感じなかったというのに、泉の淵には
今夜見張りだった筈のアーネスト=ライエルが立っていて。青年は濡れた黒髪のすき間から垣間見えるその姿に大きく
双眸を見開く。何か告げようにも、あまりに意外な姿に驚愕したため咽喉が引き攣り、声が出せない。それでも何とか
声を絞り出そうと咽喉元に手を掛けると、先にアーネストが声を掛けてきた。

「・・・・・あまり長く浸かるな。この時期の水は冷たすぎる」

上がれ、と一度掲げた腕を泉から陸地へと引いて手招いてみせる。青年は素直にその言葉に従おうと歩き出すが
いざ、上がるにしても自分は何も身に付けていない。幾らそこに立っているのが同性のアーネストであっても、目の前で
裸体を晒すのは流石に気が引ける。おまけにタオルの類も何も持ってきていない。水から上がっても暫くは服が
着れない状態でいなければならず、その間ずっと彼の目前に自分の肢体が晒され続けると思うと、後数歩というところで
自然に足が止まってしまう。

「・・・・何だ、どうした?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

アーネストは特に気にした様子もなく、泉の中の青年が上がってくるのを待っている。しかし、一向に彼は上がってくる
様子がなく、段々とアーネストの目尻に不快そうに皺が寄る。一つ溜息を吐くと、服を着たまま、泉に足を突っ込んだ。
それに驚くのは泉の中で立ち止まっている青年だ。予想外のアーネストの行動に目を丸くして動けずにいると、ずかずかと
近寄ってきた彼に腕を取られて、陸へと引っ張り上げられる。ザバァッと大きな水音を立てて二人は、泉から出た。
柔らかな草の上に裸のまま投げ出された青年は、寒さと羞恥で身を丸くして蹲る。

「・・・・後先を考えずに行動するから、そうなる」
「・・・・・・・・・・・・・ぅん」
「・・・・・分かっているのか、カーマイン?」

名を、彼の口から呼ばれるのは随分と久しかったので身を震わせながらも、自分の傍に立っている男へとカーマインは
顔を向けた。対するアーネストは濡れた服が気持ち悪いのか、脱ぎ始めている。その様子が、彼こそ後先を考えていない
ようでカーマインは小さく笑う。それを咎めるように上着を脱いだアーネストはカーマインの顔に向けてそれを投げつけた。

「・・・・・・・・ぶっ」
「そんなに恥ずかしいなら着てろ。どうせ濡れているから気にはせん」
「あ、有難う・・・・。でも、ライエルは・・・・どうするんだ。下も濡れてるだろう・・・?」
「・・・・・・・・・・・何だ?脱いで欲しいのか?」

にやりと意地悪く笑われて、カーマインはそれが冗談だと分かっていても白い頬を紅く染め上げる。
肌の上に乗っかった黒いコートを肩に羽織り、手を交差して裾を引っ張り、身体を隠しつつも余所を向く。
自分の身体を見られるのも恥ずかしかったが、アーネストの何も来ていない上半身を目にするのも何故か恥ずかしくて。
内心で俺は生娘かと思いつつも視線を合わせられない。背後ではアーネストがそんな初心なカーマインを声を出して
笑っていた。それにムッとしつつも、振り返ることも出来ずにカーマインは戸惑う。仕方なしにそのままの格好で
気になっている事を問うた。

「・・・・・ラ、ライエルは何でこんなところにいるんだ。見張りだっただろう・・・!?」
「それは先に俺が訊いたんだが・・・・まあいい。見張りは交代して、お前を追って来た」
「・・・・・!ぬ、抜け出したの・・・・気づいてたのか」
「お前が起き上がった時に気づいた。いい加減何か話し掛けて来るかと思いきや逃げられるとは思わなかったぞ」

何故俺を避ける、とアーネストは幾分声を低くし質してくる。背中越しに射殺すかのような鋭い視線が向けられているのを
感じ、カーマインは知らず身を竦ませた。アーネストは無言でいる。カーマインが何かしらの応えを返してくるのを
待っているようだ。それに対してカーマインは言っていいものかと悩む。こんな薄暗い思いを。口にすれば彼を苛立たせるで
あろう事は分かりきっているのに。嫌悪の感情を注がれるであろうと分かっているのに・・・・言ってしまってもいいのか、と。
またしても黙り込むカーマインにアーネストは軽く眉間に皺を寄せるが、すぐに何かを思いついたように緋色の目を細め、
自分の脱いだ上着を羽織って縮込まる、カーマインの背を背後から抱き寄せる。

「・・・・・・・・・・・ひゃ!?」
「・・・・・・いつまで黙っているつもりだ。俺はあまり気が長い方ではないんだがな・・・・」

腕の中に閉じ込めた小さな身体の耳元に直接声を落としながら、アーネストは腹部へ回した腕をゆっくりと撫ぜ上げる。
ビクリとカーマインは覚えのある感覚に身を震わせた。以前にも、彼が国外追放の処分を受ける前にこうして触れられた
事がある。服に手を差し入れられて、腹部から胸を弄られて。その時はそれ以上の事はされなかったけれど。
というか、邪魔が入ったから止めただけのようだったが。それ以来、触れられた事がなかったにも拘らず、肌はその感覚を
覚えている事にカーマインは驚いた。そうこうしている間にもアーネストの凶行が進む。背後からぞろりと首筋を舐められ、
赤い舌は這い登り、朱に色づいた耳裏を辿り、ぱくりと食む。目に見えてカーマインは身体を跳ねさせる。しかし、抱えた
アーネストの腕が力尽くで押さえつけ、平らな腹を愛でていた手のひらを胸元へと引き上げた。

「・・・・・・どうした?言わないのか・・・・・?それともこのまま抱かれたいか?」
「・・・・・・・・・・っあ、・・・待っ・・・・・・・・・・・・」
「言ったろう、俺は気が短いんだ」

言うのなら早くしろ、とでも言うかのように性急に首筋へと歯を立てられ、きゅうと吸われる。
紅い鬱血の跡が花弁のように刻み込まれた。微かな痛みと滑る舌の生々しい蠢きに堪えかねてカーマインは
身を捩ってアーネストの方を振り返る。金銀妖瞳は既にうっすらと露掛かっていた。弾む吐息を抑えようと必死に
なりつつもカーマインは口を開く。

「・・・・・・ぃ、う・・・・から・・・・・・・やめ・・・・・」
「初めからさっさと言えばいいものを・・・・・」

アーネストのその言葉には恨みがましい視線を寄越すものの、早く言わねばまた同じ事の繰り返しかと、視線を
前に戻して。ぽつぽつとカーマインは今まで仲間になったアーネストを何故避けていたかを話し出した。

「・・・・・・・・・怖かったんだ」
「・・・・・・何が」
「自分の罪を直視するのが・・・・君に、拒絶されるのが・・・・・・」

震えた声音にアーネストの細い眉根が顰められる。けれど、特に何をするでもなくそのままに。

「罪だと・・・・?」

やや不機嫌を露にした低い呟きを漏らす。カーマインの全身が怯えに竦む。目前に迫った拒絶を恐れて。

「・・・・・・俺は、”彼”を殺した・・・・・・・・だからっ・・・・」

彼、という言葉が誰を表しているか瞬時に悟ったアーネストは腕に抱えていた身体を反転させて、瑞々しい草葉の
生い茂る地面へと押し付けた。あまりにも強引で、激情を露にしたその行動にカーマインは涙を溢れさせる。
怖かった。そこにいるのはいつも他人に無関心で淡白な彼ではなく、劣情を抱いた男の顔をしたアーネスト=ライエルで
あったから。初めて見るその表情。以前に戯れに触れられた時とはまるで違うそれは、鳥籠の中で飼われるように
過ごしていたカーマインには恐ろしくて仕方なかった。

「・・・・ラ、イエ・・・・・・・ッ」
「この、愚か者が・・・・!」
「・・・・・・な、に・・・?」

グッと、握り潰すかのようにカーマインの細い腕を掴み地面へと押さえつける。その様はさながらかよわい女性を
強姦する悪漢のようで。力強く押し倒されてしまえば、誰だって怖い。カーマインは腕を振り解こうと躍起になるが、
全く歯が立たずに簡単に地に沈められてしまう。

「貴様はっ!一体幾ら俺の想いを踏み躙れば気が済むっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・!?」
「俺はっ、お前を・・・・・・ッ・・・・・・!」

珍しく、感情を剥き出しにして怒鳴りつけたアーネストは急に息を詰まらせたように言葉を切る。
それは感極まったのか、それとも頭に血が上って余計な事を口走りかけたのか定かではないが、黙ってしまった
アーネストの顔を窺おうとするカーマインの視線から避けるように彼は目下の細い肩口へと頭を埋め、身を沈めた。
何も纏わぬ胸が重なって、互いの鼓動が聞こえてくる。どちらも正常より少し速い。

「・・・・・・・・・ライエル?」
「・・・・・お前は、あの方を奪い・・・・それを許すという選択肢すら奪うつもりか・・・・・・」
「・・・・・・・えっ・・・・・・?」
「俺は、お前を憎んでなどいない、厭うてなどいない!そんな事なら、とっくの昔にお前を殺している・・・・!」
「・・・・・・・・・・・・・・ッ!」

声が、震えている。腕を掴んでいる力は一向に弱まらないというのに、アーネストの声だけが弱々しくなっていく。
掴まれた腕は赤くなり、骨が軋んで痛むのにカーマインは文句を言う事すら出来なかった、いや思いつかなかった。
ただ、頭を撫でてやりたくとも、背に腕を回してやりたくともそれが出来ないという事だけが不満で。どうしようもなく、
だらりと全身の力を抜く。今の自分に出来るのは、せいぜい自分は彼を拒絶していないと伝える事だけ。

何もかも間違っていたから。拒絶されるのが怖いと言いつつ、自分がアーネストを拒絶していたのだ。その事実は
カーマインをこれ以上なく打ちのめす。怯えに怯えて真実を見誤ってしまっていた。それに気づけば、途端に
こうまで乱雑で、感情的になっているアーネストに抱く感情は恐怖ではなく、愛しさで。先ほどとは違う意味の涙が
ほろほろと頬を伝っていく。気づいたアーネストは顔を上げ、不審気に表情を顰めた。

「・・・・・何を、泣いている」
「・・・・・・・・・・分からない、けど・・・・怖いとか、悲しいとかじゃ、ない・・・・・」
「・・・・・・泣くな。お前の泣く姿を見るのは・・・・・・不快だ」

言葉だけ聞けば随分と酷い事を言っている。しかし、それはアーネストなりの泣き喚く子供を母親があやすに等しい
行為だったのだろう。あまりに拙くて不器用なそれにカーマインは柔らかに微笑んだ。

「・・・・・君が、そう言うなら、俺は泣かないよ・・・・?」

言って、言葉通りにカーマインは涙を止めて、ずっと微笑んでいる。アーネストがそっと顔を逸らす。
けれど、胸元が大きく上下した事から、きっと安堵の息を吐いたのだと、勝手にだが推測したカーマインは酷く
愛しげにアーネストを見つめる。今まで、自分は何を見ていたのだろうと省みながら。言葉やぱっと見の彼は、
何処か怒っているようで、冷たいように見えるけれど、本当は優しいのだと。そう知る事が出来て得したような気に
なってしまう。しかし、未だ掴まれている腕が流石に痛くて少しだけ、表情を歪める。

「・・・・・・・・・・・痛っ」
「・・・・・・・・・?」
「ライエル、腕・・・・痛い」

言われて初めて気づいたようにアーネストは指先の力を緩めた。自分の指の隙間から、カーマインの手首に紫に鬱血した
跡がくっきり残されているのが見える。縄で縛ってもこうはならないだろうと、内心で反省してそっと指を外すとその場所を
舐めた。ちろちろと辿って、少しでも痛みを和らげようとする。

「・・・・・・・ん、くすぐ・・・た・・・・・・・」
「・・・・・・・・・我慢しろ」
「で、も・・・・・大丈夫だから・・・・・」

触れる舌の動きが妙に擽ったくて、カーマインは微かに身を捩るが、アーネストは特に気にせず、それを続けた。
右手を舐めては、左手を舐め、浮かび上がる痣の色が薄くなるまでそれを続ければ、カーマインの両の手首は彼を
組み敷く男の唾液でベタベタになってしまっていた。

「・・・・・・何か、ぬるぬるする・・・・」
「・・・・・・・・別に、そこで洗えばいいだろう」

そことは、二人の背後にある泉であった。確かにそうだと思ったカーマインは、アーネストに上から退いてくれるよう
頼んでみるが、アーネストは首を縦に振りはしなかった。むしろ逃がさないとでも言うかのように、益々体重を掛けてくる。

「・・・・・・ちょ、重い・・・・・・・・」
「・・・・・どうせ汚すのだから、後で洗えばいい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何?」

意味が判らないと、細い首が横に傾ぐ。漆黒の濡れ髪がぱらりと動いた。対するアーネストはそれが予想の範疇内で
あったのかフッと微笑うと、目を瞬いているカーマインに顔を寄せ、無防備な桜色の唇を啄ばんだ。驚きに零れそうに
なるまで開かれる異彩の眦。長い睫が震える。下唇を銜え、甘噛みしながらカーマインの口が開くのを待つ。
何か言おうとしたのかうっすらとカーマインが口を開けるとすかさずアーネストは舌を忍ばせて、熱い口腔を蹂躙し、
その間に剥き出しになったカーマインの細い脚をゆっくりと撫でる。自分の意図を分からせるように。

「・・・・!!・・・・・・ふぅ、ん・・・・・」

いやいやと首を振って逃れようとする組み敷いた肢体の逃げ惑う舌をアーネストは自分のそれで絡めとって、
口内で苛めてやる。角度を変えて何度も何度も口付けて、カーマインが熱い吐息を漏らすようになるまでそれを
続けると、漸く離れた。その際、互いの唇を結ぶように銀糸が引き伸ばされる。上手く呼吸出来ずに苦しげな
カーマインを見下ろすとアーネストは言う。

「・・・・・・・・・・嫌か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

訊くのが遅い、と内心怒りつつカーマインは少し苦しかったが別に嫌ではなかったなと思い、素直に首を振れば
アーネストは先ほど以上にはっきりと笑った。彼の背後、広々と広がる夜空では煌々と月が輝き、星が囁く。
あまりに美しい星空の下、それとは似つかわしくない、淫靡な行為が始まろうとしていた。





◆◇◆◇






初めにアーネストは首に掛かった金鎖のネックレスを外すと、その辺りに捨て置いた。飛んでいったそれをカーマインが
目で追っている隙に、アーネストは横を向いてくっきりと浮かび上がった綺麗な首筋に唇を寄せ、所有印をつける。
チリと皮膚が焼かれるような感覚がしてカーマインは息を詰めた。

「・・・・獣は餌となる生き物の首を噛み切るというが・・・・なるほどな」

確かに、喰いちぎりたくなる、とアーネストは物騒な言葉をカーマインの耳元に囁いて、その声を拾う器官の中へ
舌を突き入れる。ぞわりとした感触に知らず背筋が慄く。カーマインは内から込み上げてくる未知の感覚を堪えようと、
何か縋り付くものを手探りで探すが、ここは森の中であってベッドの上じゃない。当然、枕もシーツもない。地面に爪を
立てるわけにはいかないし、草を掴んだってすぐに抜けてしまう。どうしようもなく、けれど何かを掴んでいなければ
落ち着かないと視線を彷徨わせれば、それはアーネストの背中へと導かれた。

「あ、何・・・・・・?」
「・・・・・・きょろきょろ余所見をするな」

それだけ言って、アーネストはまだ釈然としない様子のカーマインの意識を自分に持ってこさせようと、鎖骨を舐め、
身体のラインを緩く辿りながら、胸の頂を熱いもので包んで、舌先で突付いたり、押しつぶしたり、吸い付いたりし、
空いたもう片方を、指先で転がす。時折きつく歯を立てたり、指先で摘み上げたり、と決して優しい愛撫ではない。
それでも初めは痛みを感じこそすれ、慣れてくるとその痛みが心地よく感じられ、カーマインは吐息を弾ませ、身を
くねらせる。いつの間にか、腰へと腕が回されていた。ゆるゆると撫でられれば胸への直接的な愛撫と異なり、
随分と優しくもどかしいそれに気が狂いそうになる。

「・・・・・・はっ、・・・・うん・・・・・・・」

今まで懸命に堪えていた声が噛み締めた唇から漏れた。それに気をよくしたアーネストはカーマインの身体を
起き上がらせると、両脚を掴んで爪先に口付けてから勢いよく開く。常に隠されている部分がアーネストの眼前に
曝け出され、カーマインは羞恥で顔を染め、何とか離させようと身を捩り、脚をばたつかせてみせようとするが、
ピンと張った内股を柔らかく食まれれば、動きが止まり、ぴくりと脚が引き攣る。

「・・・・あっ、・・・・・・ん・・・やっ・・・・・止めろ、ライ、エル・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・もう、濡れてるな・・・・・ほら」

カーマインの普段は慎ましやかな中心から愛欲に濡れた先走りが滴っている。それを指先に掬って眺めると、
同じようにカーマインの目の高さへとそれを持って行き、見せ付けた。

「・・・・・・や、だ・・・・・」
「嫌?お前のものだろう・・・・?」
「・・・・・ちが、っ・・・・・・・・・・」

フルフルと首を振り、捧げられた指先を見ないようにしながらぎゅっとカーマインが目を瞑ってしまったので、
アーネストはつまらなそうにそれを舐め取ると、自分の唾液とカーマインの愛液で濡れた指先をそのままつぷんと
秘部へと触れさせ、一本だけ埋める。いきなりの事で、圧迫感と痛みにカーマインの肢体は跳ね、悲鳴が零れ落ちた。

「――くっ、あぁっ・・・・・!」
「・・・・・・やはりきついか・・・・・・」

まだ未開の入り口はアーネストの細い指先を痛いほどに締め付ける。それでも傷をつけないように、とは思いつつ
幾分強引に内部をぐりゅと掻き回す。内襞を撫ぜ擦り、狭い入り口を広げようとするが、相手は如何せん”初めて”な
わけで、そう簡単には解れない。カーマインの息が詰まるような悲鳴が引っ切りなしに響く。呼吸は甘く熱い。
頬を染め啜り泣く姿は妖艶であり、何処か幼さを残す。視覚的にも随分と扇情的だが、ずっと苦しげに眉を顰めて
いるのが、アーネストの気に障った。しかし、ああそういえばと思い出す。

「そういえば、此方を忘れていたな」
「・・・・・・・ふぁ・・・・?」

指は蕾に埋めたままで、アーネストは今までずっと放っておいた蜜を流し続けるカーマイン自身の茎に舌を這わせ、
蜜を拭いながら先端を咥える。空いている指先を絡め、擦り上げる。最も敏感な部位を愛しまれて、カーマインの
喘ぎに艶が帯びていく。そしてそちらに意識が行ったため、全身の力が緩み、蕾の内を蠢く指先の動きが幾分
スムーズになり、アーネストは徐々に指の数を増やしていく。

「う、ぁ・・・・あ・・・・・だめ、何か・・・・出・・・」
「・・・・・・・・・・」

がくがくと身を震わせ、射精感を訴えかけるカーマインの様子に気づき、アーネストは自身を扱いている指先で輪を
作り、熱く滾ったカーマインのそれを根元で堰き止めてしまった。込み上げる快楽と熱を解放出来ずに抑え込まれて
しまったカーマインは当然の如く、その苦しさに涙を零す。

「あ、あっ・・・・・や、だ、離して・・・!」
「・・・・・・・断る」
「だ、・・・め・・・・おかしく、な・・・・ああっ!」
「好きなだけおかしくなればいい」

あまりに酷薄な言葉を吐いて、アーネストは蕾に埋めていた指先を勢いよく抜いた。それだけの刺激にも、カーマインは
大きく身体を波打たせ、啼く。不意に草の匂いが香る。それに若干落ち着きを取り戻すが、カーマインは痛みと圧迫感、
それに得体の知れぬ悦楽という甘い痺れに悩まされ、流されまいと抗っても流されていく。そっと頬に口付けが降った。
驚いて横を向けば、アーネストが笑っている。カーマインは瞳に溢れさせた涙を拭う。何だか、涙で視界がぼやけて
アーネストの笑顔を見逃すのが惜しい気がしたから。そしてつられるようにカーマインも口元に笑みを湛えると。

「・・・・・・・痛くとも泣くなよ、我慢しろ」
「・・・・・・・・・・・え?・・・・・ふ、あ、あああっ!」

優しい微笑が意地の悪いそれへと変わった途端、カーマインは悲鳴を上げた。それは衣を裂いたような。
深々とアーネストの昂った熱源が、花を散らす勢いでカーマインの秘部へと突き入れられたから。あまりの痛みに
カーマインは自分を押さえつけるアーネストの腕に深く爪を立てた。

「こら、爪を立てるな」
「あ、くぅ・・・・・・はっ・・・・・や、痛い・・・・!」
「それは分かっている。我慢して慣れろ」

無茶を言って、アーネストは特にカーマインの様子に気にした風もなく腰を進める。ずぶずぶと内襞を掻き分けて行く度、
カーマインは喘ぎなのか悲鳴なのか判別のつかぬ声を上げた。かなり強引に貫き通すと、アーネストは今までずっと
戒めていた自身に絡めた指を外し、両手でしっかりとカーマインの細腰を掴む。

「・・・・・・それにしても・・・・きついな。もう少し、緩めろ・・・・」

押し殺したような声で告げて、深く突き入れる。アーネストが動く度、カーマインの内部は擦られ、その刺激に初めは
痛みしか感じていなかったカーマインも徐々に下の方から上り詰めてくるような甘い疼きにぐったりと身を放り出す。
こんな行為は初めてなのでよくは分からぬが、きっとこれが快楽と呼ぶものだろうと、カーマインは咽喉を引き攣らせて
喘ぐ。もう、声を抑えようなどとは欠片も思えない。むしろ声を出さねば体内に篭もった熱を発散出来ず、狂ってしまい
そうだった。しかし、そんなカーマインの思考が分かったのか、アーネストはカーマインの口を己のそれで塞ぐ。

悲鳴を掻き消して、何度も離れようとするカーマインを追いかけて。その間も下肢の動きを休めない。奥深くを穿ち、
内襞に隠れた、カーマインの最も反応する箇所をぐりと擦り上げて。塞いだ唇から漏れる吐息の熱さと、抱いた腕から
感じ取れる震え、強くなる締め付けに互いの限界を悟って、アーネストは一度ギリギリまで引き抜くと、最奥へと
深く強く貫いた。甘い悲鳴が上がり、カーマインが果てると最後の強い締め付けにアーネストも欲を熱い内壁へと
吐き出し、その衝撃でカーマインの視界は真っ白に染まり、かくんと意識を失う。それを見届けるとアーネストは
酷く優しく微笑んで、漆黒の汗に濡れた髪を梳いて、密やかに触れるだけの優しいキスを贈った。






◆◇◆◇






「・・・・・・っ、ぁ・・・・・?」

カーマインが目を開けると、感じるのは浮遊感だった。一体何故、ときょろきょろ視線を巡らせば、自分の身体を
アーネストが腕に抱え上げていた。ぱちと目が合うと、腕を離され、落とされる。地面に強かに腰を打ちつけるイメージが
脳裏に浮かび、カーマインは目を瞑ったが、感じるのは衝撃ではなく、冷たい水。大きな水飛沫を立てて、カーマインは
泉の中へ入水する羽目になった。身体が一度全て沈んで息継ぎのために水面に顔を出せば、すぐ目の前に
アーネストが立っていて。状況はよく分からないが、取りあえず全面的にアーネストが悪い、と文句を言おうとすれば
濡れた髪を掻き上げられ、露になった額へと口付けを受ける。

「な、何・・・・・!?」

数時間前まで、優しさとは程遠い抱き方をされたというのに、今の額へのキスはとても優しくて。カーマインはアーネストと
いう人間を図りかねる。知らず知らずそんな態度が出ていたのか、アーネストは小さく息を吐いて。

「・・・・痛い思いをさせたからな・・・・・侘びだ」

ぽつりと呟くと、アーネストは後ろを向いて、自分の身体に水を掛け始める。どうやら行為後の汗に濡れた身体を
洗っているらしい。それに習ってカーマインも水に身体を浸して汗を流す。ポタポタと全身から水が滴った。
ふと、伸ばした手足に紅い斑点のようなものを見つけて、何だろうとよく目を凝らせば、それはアーネストが付けた
印で。そうと自覚した途端、先ほどの行為を鮮明に思い出し、羞恥に頬を染める。目敏いアーネストは、にんまりと
笑って「どうした?」と問うてくる。その紅い視線から逃れようとカーマインは泉から上がろうとすれば、また背後から
抱き寄せられて。厚い胸板に漆黒の小さな頭が擦り付けられた。

「・・・・・・・ラ、ライエル!?」
「・・・・・そういえば忘れていた事があってな」
「・・・・・・・・・な、何だ・・・・・・?」

若干、嫌な予感を覚えながら恐る恐る問えば、急にアーネストの声に真剣みが帯びる。

「名前、いい加減ファーストネームで呼べ。前々から言おうとは思っていたんだ」
「・・・・・・・・・え、な・・・まえ・・・・・・・?」

予想外の事に、カーマインは拍子抜けしてしまい、強張っていた全身の力をほうと抜いた。

「・・・・分かった、今度からはアーネストって呼ぶ事にする」
「・・・・・・・・・・・・・・そうか」
「だから、・・・・その、早く離してくれ」

耳まで真っ赤にしてカーマインが言えば、アーネストは腕の力を強めた。どうにも性格が天邪鬼と言うか、
カーマインに意地悪をしたくなるらしい。じっと恨みがましい視線を感じてもアーネストは涼やかに無視して
そっと耳元に口を付ける。

「もっと、大事な事を忘れていた」
「・・・・・・・・・・・何?」

どうせまた大した事ではないのだろうと、カーマインは高をくくって、暢気にどうせ離してくれないなら寛いでしまえと
アーネストの胸に寄りかかれば鼓膜は思いもかけない言葉を拾う。

「愛している」
「・・・・・・・・・・・・・・!!??」
「そういえば、言うのを忘れていた」

言うだけ言うとアーネストはさっさとカーマインを解放して泉から上がってしまった。それからまだ身体が乾いてないうちに
服を着込み、「お前も上がったらどうだ」などとやはり板についた意地の悪い笑みで語りかけてくる。あまりにも大きすぎる
爆弾を落とされてカーマインは真っ赤になった顔を俯かせて。

「・・・・・・・普通、そっちが先だろう!?」

照れ隠しに怒鳴りつければ、背後にアーネストの笑い声が響く。どうにも、不器用なのかと思いきや、ちゃっかりと確信犯で
ある一面を見せ付けてきた彼にカーマインは困ってしまうくらいに惹かれてしまうのを感じ。囚われたかな、と。
小さく小さく呟いたのは清らかな泉だけが知っていた―――




fin



ひー!無駄に長くてすみません!!
何か途中からそんなにアニーさんも黒くないし・・・・アレ?
というか初夜からいきなりなかなかハードですよ。どうすんの!?(本当にな)
そして黒アニーさんは確信犯・・・・。告白より先に手を出したらアカンやろ・・・・。
まあ、黒だからいっかと生暖かな目でスルーして下さると幸いです(甘えすぎや)

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